SHIBATAROのブログ

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柴田康太郎のブログ。映画音楽・映画・音楽の研究してます。

(日本)映画史の入門書・入門(作成中)

【2019/03/15更新】

質問があったので、武蔵美の学生向けに入門者向け映画史(+分析)の参考文献リスト(?)を作ってみた。通史として書かれつつコンパクトで1冊にまとまっているものをメインにして。もちろんコンパクトに書かれた歴史記述というのは(間違いだってあるし、主観的と思わずにいられない記述もあるし)1冊よんでお終いということにしないことが大事だけど、まずは1冊読むべし。

質問のなかには、1980年代以後についての記述がある書籍を教えてほしいというものもあったのだけど、あまりまとまった記述は思い当たらないので他にご存知の方ぜひお教えください。

映画史の新書

さて、まず新書。映画を扱う新書はたくさんあるけれども、映画史という体裁の本としては、ひとまず以下のものがある。『日本映画110年』や『フランス映画史の誘惑』は作品ベースの歴史。『ハリウッド100年史講義』や『映画館と観客の文化史』はもっと広く産業史・社会史・文化史といった観点からの記述。

    

僕のやってる授業は「日本映画史」なので『日本映画110年』については補足を。日本映画史のより詳しい本に佐藤忠男『増補 日本映画史』(全4巻)という大部の書物がある。特に、大よそ10年単位で章立てをしている部分などは、比較してみると面白いと思う。1950年代なんかは『日本映画110年』は佐藤の論述も下敷きにしつつ(章立て=節立てなど)、これを大胆に圧縮したものとしても読める。『日本映画110年』を読んでみて気になったところは『増補 日本映画史』を参照して、2冊を見比べながら筆致から垣間見える筆者の個性も見えてくる。歴史記述がたんなる「客観的記述」ではないし、そういうものとしてはありえないということが、映画史という点からも確認できそう。

   

ちなみに、新書がこういうふうに4冊も挙がる一方で、文庫となると浮かぶものがない。田中純一郎の『日本映画発達史』(全5巻)などは日本映画史の必須文献だけど、極めて詳細な5巻本だし入門書ではない。当たり前ながら、ゴダールの『ゴダール 映画史(全)』は1巻本で入門書みたいに見えるにせよ、いわゆる通史ではない。手に取ればすぐわかるけども。

映画史の単行本

次に、新書・文庫以外で一冊でまとまっているようなもの。

世界映画史

日本映画史に限られない文脈でいえば、『映画映像史』(2004)やアンドレア グローネマイヤーの『ワールド・シネマ・ヒストリー』(2004)がコンパクト。おそろしくコンパクトで、目配りのよい記述としては、村山匡一郎編『映画史を学ぶ クリティカル・ワーズ(新装増補版)』(2013)もある。その名の通り用語集なのだけれども、10年ごとにくぎって簡単に2~3頁ずつその時代をまとめた部分があるので、通史的な流れが分かるようになっている。

それから、何よりボードウェル&トンプソンの『フィルムアート』には、第12章に「映画形式と映画史」という章があるので、やっぱり重要な教科書である。本が重くて大きいことだけが難点という本。

日本映画史

日本映画史だと、北海道新聞の連載をもとにした『日本映画100年史』が読みやすい。新聞記者が書いていることもあって社会史的なところも強く書かれているので、社会背景などを踏まえて読むのに良い。と同時に、北海道での事例を織り交ぜて書かれているので、一般的な入門書とはいえないところもあるけども、そこに地方から見る日本映画史みたいな特徴がある。個人的にはそこがとくにおもしろい。

『世界の映画作家31 日本映画史』(キネマ旬報、1976年)や同じように古い本だけど、1冊で詳細な記述が行われていてとても充実している。映画100年(1995年)の頃に作られた展覧会の図録やムック本にもコンパクトで読みやすい本がある。

 

          

ちなみに「国会図書館デジタルコレクション」にも映画本でもとんでもなく貴重な本がたくさんオンライン公開されている。歴史的文献だけども。日本映画史ということでいえば、筈見恒夫『映画五十年史』(鱒書房、1947年)がある。もっと遡れば、映画評論社編『定本世界映画芸術発達史』(映画評論社出版部, 1933)もある

1980年代以後の歴史を扱うもの

で、1980年代以後の歴史記述っていうことで質問があったので考えてみたのだけれどもあまり思い浮かぶものはないのだけど、Cine Lessonシリーズはコンパクトでとてもいい仕事。これまで計18冊出ていて、いろいろなトピックを扱った本が出ているのだけれども、日本映画史で下の2冊を、ついでに世界映画史の1冊(これは古い時代を扱うものだけど)を挙げてみた。それから『映画秘宝』系のものも。

  • 武藤起一、森直人編『〈日本製映画〉の読み方1980~1999 / シネレッスン(6) 』フィルムアート社、1999年。
  • 森直人編『日本発 映画ゼロ世代 新しいJム-ヴィ-の読み方/ シネレッスン別冊』フィルムアート社、2006年。
  • 浜口幸一編『「逆引き」世界映画史! / シネレッスン(7) フィルムアート社、1999年。 

       

映画分析・映画編集

ついでに、他にも質問があった映画の分析手法の教科書みたいなもので平易なものについて(この項目についてはもっとたくさん書いたのに消えてしまったので簡単に)。この種の本でこれ!というものに僕はまだ出会っていなくて紹介に困るのだけど、日本映画を事例にした映画編集についての本としては、今泉容子『映画の文法:日本映画のショット分析』がある。編集技法入門事典みたいな感じ。日本映画を離れれば編集技法事典的なものはたくさんある。同じ「映画の文法」というタイトルのダニエル・アリソンの本もあるし、画面の写真もたくさん入った本で1冊になってるのは『映画表現の教科書』とかもある。

でも、映画の文法の枠組みを知ろうと思えば、何よりもボードウェルとトンプソンの『フィルムアート:映画芸術入門』が重要な教科書。まずは第Ⅳ部かしら。

    

 作り手側の言葉によるものでおもしろくて刺激的なものには、ヒッチコックトリュフォーの『定本 映画術』や塩田明彦『映画術』が定番か。目から鱗が落ちまくるので大変。

 

その他

また追々。

       

映画音響/映画音楽研究の基本文献リスト(3):映画音響研究

さて第3弾(実はとうの昔に書いたものなのだけど、確認などしてからアップしようと思ったら時間が経ってしまったので、見切り発車的にアップします)。

映画音響研究の関連するものですが、ここでの「映画音響」という言葉は、映画の音に関わる部分で「音楽以外をふくめて」という程度の意味合いで使っています。このリストでは、音楽はそれだけで一定の物量があるので別立てにしてますが。

ここで紹介すべきだなと思っていた文章がどれもこれも英語の映画音響論の基礎文献アンソロジーであるWeis and Belton, Film Sound: Theory and Practice, Columbia UP, 1985.に入っていたので、せっかくだからこの本の目次にそって紹介します。Secction 3の各作家についての文章を翻訳するだけでも、けっこうおもしろいと思うんだけどなぁ。

   

Part 1. History, Technology, and Aesthetics 

  • Introduction
  • The Coming of Sound: Technological Change in the American Film Industry, by Douglas Gomery
  • Economic Struggle and Hollywood Imperialism: Europe Converts to Sound, by Douglas Gomery
  • Film Style and Technology in the Thirties: Sound, by Barry Salt
  • The Evolution of Sound Technology, by Rick Altman
  • Ideology and the Practice of Sound Editing and Mixing, by Mary Ann Doane

メアリ・アン・ドーン「サウンド・トラックのイデオロギー」杉山昭夫訳、『イメージフォーラム』1985年12月.

ロイヤル・S・ブラウンのヒッチコック/ハーマン論のときにも紹介した『イメージフォーラム』所収。

  • Technology and Aesthetics of Film Sound, by John Belton

Part II: Theory 
Section 1: Classical Sound Theory

  • A Statement, by S. M. Eisenstein, V. I. Pudovkin, and G. V. Alexandrov

「トーキー映画の未来〈計画書〉」『エイゼンシュテイン全集7』

可能性を開拓できないままに大資本のなかにトーキーという技術が呑み込まれることを危惧して書かれている。「対位法」という言葉がここで出てくるのも有名だけども、特にその意味内容は詳しく書かれていないので、いろいろな解釈を呼ぶことにもなる。

  • Asynchronism as a Principle of Sound Film, by V. I. Pudovkin
  • The Art of Sound, by René Clair
  • Manifesto: Dialogue on Sound, by Basil Wright and B. Vivian Braun
  • Sound in Films, by Alberto Cavalcanti
  • A New Laocoön: Artistic Composites and the Talking Film, by Rudolph Arnheim

ルドルフ・アルンハイム「新ラオコオン」『芸術としての映画』所収

「ラオコーン問題」の映画版。アルンハイムはサイレント映画を基本として映画というメディアを捉えて、トーキーを痛烈に批判している。

 

  • Theory of Film: Sound, by Bela Balazs

ベラ・バラージュ『映画の理論』佐々木基一訳、學藝書林; 新装改訂版 、1992

 ここには第16章「サウンド映画」の一部が収録されている。バラージュ・ベーラ。

  • Dialogue and Sound, by Siegfried Kracauer
  • Slow-Motion Sound, by Jean Epstein

Section 2: Modern Sound Theory

  • Notes on Sound, by Robert Bresson
  • Direct Sound: An Interview with, by Jean-Marie Straub and Danièle Huillet
  • Aural Objects, by Christian Metz

クリスチャン・メッツ「知覚されたものと名づけられたもの」『エッセ・セミオティック』樋口桂子訳、勁草書房、1993〕

すんません、この文章をちゃんと読んでからアップしようと思ってたんだけど、時間がなくてそのままです。また追記したいところです。

 

  • The Voice in the Cinema: The Articulation of Body and Space, by Mary Ann Doane

メアリ・アン・ドーン「映画における声:身体と空間の分節」松田英男訳、岩本憲児・武田潔斎藤綾子編『新映画理論集成2 知覚/表象/読解』フィルムアート社、1999.

 『映画理論集成』のあと『新映画理論集成』(全2巻)が出たのだから、『新・新映画理論集成』とか出ないものかしらむ。

    

Part III: Practice 

Section I: Practice and Methodology

  • Fundamental Aesthetics of Sound in the Cinema, by David Bordwell and Kristin Thompson

第9章「映画の音」『フィルム・アート:映画芸術入門』名古屋大学出版会〕

音に関しても基礎的な枠組みを示している、やっぱり重要な本。

  • On the Structural Use of Sound, by Noël Burch

Section 2: Pioneers

  • The Movies Learn to Talk: Ernst Lubitsch, René Clair, and Rouben Mamoulian, by Arthur Knight
  • American Sound Films, 1926-1930,, by Ron Mottram
  • Applause: The Visual and Acoustic Landscape, by Lucy Fischer
  • Enthusiasm: From Kino-Eye to Radio Eye, by Lucy Fischer
  • Lang and Pabst: Paradigms for Early Sound Practice, by Noël Carroll
  • The Voice of Silence: Sound Style in John Stahl's Back Street, by Martin Rubin

Section 3: Stylists

  • Orson Welle's Use of Sound, by Penny Mintz
  • The Evolution of Hitchcock's Aural Style and Sound in The Birds, by Elisabeth Weis
  • The Sound Track of The Rules of the Game, by Michael Litle
  • Sound in Bresson's Mouchette, by Lindley Hanlon
  • Godard's Use of Sound, by Alan Williams

アラン・ウィリアムズ「ゴダールにおける音の用法」鈴木圭介訳、浅田彰四方田犬彦責任編集『GS たのしい知識 特集=GODARD SPECIAL」』vol.2 1/2, 1985.

 

 Section 4: 現代の開拓者たちContemporary Innovators

  • Altman, Dolby, and the Second Sound Revolution, by Charles Schreger
  • Sound Mixing and Apocalypse Now: An Interview with Walter Murch, by Frank Paine
  • The Sound Designer, by Marc Mancini
  • Sound and Silence in Narrative and Nonnarrative Cinema, by Fred Camper

その他

その他のもので研究という感じのものは思い当たらないのだけれども、オーストラリアのクリエイターでありつつ気鋭の書き手でもあるフィリップ・ブロフィの仕事は看過できない。ブロフィはブログで名前をカタカナで書いてもいるというあたりに親日家を窺わせるひとで、翻訳されている『シネ・ソニック』でも、サウンドのおもしろい映画として日本映画をちらほら選んでいる。日本の同様の本としては、小沼 純一、二本木かおり、杉原賢彦編『サウンド派映画の聴き方』がある。

 

その他では、編集者のウォルター・マーチの著作は音響にかんする話題でも刺激に富んでいる。上の本のPart III: Practice、Section4にも彼のインタビューが入ってますね。

     

ちなみに、英語の映画音響論の最も基礎的な論文集であるRick AltmanのSound Theory/ Sound Practice, Routledge, 1992.についてはCinemagazinetに書評があります。研究を始めたころとても勉強になったのを思い出します。アルトマンについてはたぶんひとつの邦訳がないのじゃなかろうか。アルトマンはミシェル・シオンと並んでこの分野での超重要人物です。 ジョナサン・スターンの『サウンド・スタディーズ・リーダー』にもこの本のアルトマンの論文が収録されてます。

   

次の『Sound Design 映画を響かせる「音」のつくり方』は最近の翻訳。これもちゃんと読んでないけども、具体的なエピソードを交えながら記述されているのがいい。

    

 ひとまずこんな感じです。ほかにも何かあったらぜひお教えください!!

映画音楽に関するシンポジウム&ワークショップ「映画音楽とコンピュータ・テクノロジー」開催(4/29)のお知らせ

今日はシンポジウム&ワークショップ開催のお知らせを。

チラシを公開しました。このページの末尾にあります。(4/9)

ワークショップの参加予約は早くも定員に達したそうです。ともあれ、午後のシンポジウム等は予約なしでお越しいただけます。奮ってご参加くださいませ。(3/11)

公式ページ(コチラ)を公開しました。ワークショップの募集も受付開始です!ご興味のある方はぜひご参加ください!なお、長いあいだ曜日を誤ったまま掲載していましたが、4/29は土曜日です。以下でも訂正いたしました。(3/9) 

9月にも作曲家の栗山和樹先生と選曲家の辻田昇司さんをお呼びして音楽学会でシンポジウムをおこないましたが(コレ)、今度は、2017年4月29日(土)に――約2か月後!――栗山先生を中心として(音楽学会の支部横断企画の)ワークショップ&シンポジウムが開催されることになりました。映画音楽とコンピュータ・テクノロジーの関わり、映画音楽と音響テクノロジーの関係の現代の状況を対象とするものとなります。打ち合わせまではイメージがつかめなかったのですが、打ち合わせでいろいろなエピソードや事情をうかがって漸く、めちゃくちゃおもしろそうな企画であることに今さら気がつかされてワクワクしております。

現代の映像音楽(映画、テレビ、コマーシャル、ヴィデオパッケージ等の音楽)では生のオーケストラの録音も打ち込み音源も使われていて、しかもこの打ち込み音源のものの精度が相当に上がっていて、時にはプロでも聞き分けられないくらいになっているようです。今回の催しの軸のひとつは、オーケストラ・サウンドになると思いますが、生演奏で演奏をして録音するということの意義はどこにあるのかとか、録音/音響テクノロジーそのものの意味合いの変化とかいうこともふくめ、思考材料が盛りだくさんになりそうです。

今回はワークショップでのデモンストレーション、作曲家の経験談、そして武満徹などでの映画音楽とテクノロジーとの関わりの歴史といったことも併せて考えながら、改めて現代の作曲家たち、殊にオーケストラ音楽を書く作曲家たちが映画音楽の仕事をしているテクノロジー環境(打ち込み音源を扱うソフトウェアのことなどふくめ)に光を当て、その問題点や可能性を考えたいと思っています。

ワークショップは会場の都合上、申し込みの方優先(多ければということですが)になりますので、ご興味のある方はぜひ!

シンポジウム、及びワークショップ
「映画音楽とコンピュータ・テクノロジー」

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 プログラム(題目等は仮)

ワークショップ(10:00~12:50)※事前申し込み優先。申込はコチラから。

10:00「ソフトウエア音源によるオーケストラシュミレーション」

   講師:岡崎雄二郎(作曲家)
11:00「VIENNA INSTRUMENTS ワークショップ」
   講師:江川大樹(クリプトン・フューチャー・メディア(株))

   ※VIENNA SYMPHONIC LIBRARY | SONICWIRE

12:00「映画背景音楽のトラックダウン技術」
   講師:亀川徹(東京藝術大学教授)

シンポジウム(14:00~17:00)

14:00 基調講演「アンダースコアの歴史的変遷」
   講演者:栗山和樹(東日本支部・作曲家)
14:15 パネル・ディスカッション:「映画音楽と電子機器の関係史」
   白井史人(東日本支部)「映画音楽と電子楽器」

   川崎弘二(西日本支部)「映画音楽とミュジック・コンクレート」
   柴田康太郎(東日本支部)「映画音楽と電子変調/シンセサイザー
15:00 ゲスト講演:「自己制作環境の変遷と自作品について」
   講演者:中川幸太郎(作曲家)
16:00 ディスカッション「作曲スタイルとソフト音源環境」

16:45 質疑応答

 

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