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映画音響/映画音楽研究の基本文献リスト(1):ミシェル・シオン

以前すこし尋ねられてちゃんとまとめなきゃなと思いながら放置していたもの。海外の研究の邦訳文献中心に書いてみます。シオンだけで長くなったので、ひとまず3回分くらいに分けてかきます。というわけで第1回。このエントリも随時更新予定。[2017/01/31更新]

ミシェル・シオン Michel Chion

シオンはもともとピエール・シェフェールの音響オブジェ論に向き合いながら考察もおこない、かつミュジック・コンクレートの作家としても活動しているひと。独特の用語を作って独自の思考を進めている人でもあるので、アメリカなどの映画音響/映画音楽研究の本道とは少しちがう位置づけにあるというべきだと思う。でもこの分野の第一人者であり、またこの分野の理論的な枠組みを最初に作ったひとでもあるし、何よりとてもおもしろい。

いちばんおもしろいと思うのは主著のL'Audio-Vision(1985)だけど、これは日本語になってない。でも三部作みたいな『映画の声』『映画の音』『映画の音楽』が抄訳ふくめ日本語になっているし(本当はシリーズとしては『穴のあいたスクリーン』も含まれるので四部作?)、ジャック・タチの作家論とかもあるので、この研究領域のなかで日本語ではただひとりだけよく紹介されている。シオンの公式ページはコチラ

1. ミシェル・シオン『映画にとって音とは何か』(勁草書房、1993)

まず読むならこれ。原著はLe son au cinéma, Editions de l'Etoile, 1985. 原題は『映画における音』だけど、3部構成のうち第1、3部は「音」全般、第2部は音楽について扱っている。コンパクトに、映画と音のかかわりの面白いポイントが取り上げられてるので、入門書としても今でもおもしろいと思う。

         

 ちなみに、この翻訳で「フレーム内の音」「フレーム外の音」という訳語が広まったけども、正清健介(2014)さんが指摘するように、シオンが主に使っているのはcadreという言葉ではなくchampという言葉なので(61頁、注4)、訳語としてはすこし踏み込み過ぎともいえる。僕は「画面内の音」「画面外の音」というくらいの訳語の方がいいと考えております。

 2. ミシェル・シオン『映画の音楽』小沼純一・北村真澄監訳、伊藤制子・二本木かおり訳、みすず書房、2003。

いわゆるBGMみたいな伴奏音楽だけじゃなく、映画と音楽の関係を多角的に論じている大部の著作。題名が「映画音楽」じゃなく「映画の音楽 La musique au cinéma」「映画における音楽」というタイトルになっているところがミソなんだと、小沼純一先生が改題に書かれているけども、これは『映画にとって音とは何か』からの基本姿勢。前半は通史的な記述、後半は主題別の記述で、それぞれすごくおもしろいトピックがたくさん入っているのだけども、通史記述も自由に書かれているので、応用編という感じか。訳文の読みやすさもまちまち。

     

 3. ミシェル・シオン「消失への誘い」谷昌親訳、『季刊リュミエール』第12号, 85-90.

これは『映画の声 La voix au cinéma』(1982)の第8章の翻訳(第9章の一部は次の『ヒッチコック×ジジェク』に翻訳)。溝口健二の『雨月物語』を扱って、画面外の声について論じている。それほど面白かったという記憶はないのだけど、いまコピーがすぐ出てこないので何ともいえない。 

    

4. スラヴォイ ジジェク編『ヒッチコック×ジジェク』鈴木 晶・内田樹訳、河出書房新社 2005。

あんまり検索ではヒットしないけども、本書には以下の3本のシオンのヒッチコック論が収録されている。

「第四の側面」は『裏窓』論、「運命の暗号」は『バルカン超特急』論、「身体を持つことの不可能性」は『サイコ』論。 

     

5. 『ジャック・タチ映画の研究ノート』武者小路実昭・武者小路真理恵訳、愛育社 、2003。

カイエ・デュ・シネマ」で映画批評にかかわってきたシオンによるジャック・タチ論。少なくともこの著作はとくべつ映画音楽や映画音響にかんする著作というわけではない。でももちろんタチが対象なのだから、音にかんする言及は随所にみられる。もっとも、この著作には個人的にはまだきちんと向き合っていないので、追々また追記します。

     

6.  ミシェル・シオン+小沼純一「現実/虚構、音/音楽」『月刊 みすず』第581号、2010年4月号。

来日時の小沼純一先生との対談。小さなおもしろい論点は出ているけども、短い時間のものなのでそれぞれさほど掘り下げられてはいない。そもそも『千と千尋の神隠し』についてちょこっとシオンが言及して、小沼先生がもうすこし聞き出そうとしても、シオンはあまり細かな話はしていない。

7. 電子音響音楽に関するいくつかの記述:ジャン・イヴ・ボスール『現代音楽を読み解く88のキーワード』栗原詩子訳、音楽之友社、2008.

短い引用だけども、日本語で「アクースマティック」「還元的聴取」「具体音楽」「音響オブジェ」についての彼の言葉が収録されているのは貴重? ちなみにシオンの電子音響音楽についての論考はフランス語の6冊が無償公開されているほか、英語版で無償公開されているものもある。 

    

 

二次文献

    

 追記 ちなみに、ミシェル・シオンの主著だと上にも書いたL'Audio-Vision(1985)の「3つの聴取のモード」はジョナサン・スターン編による『サウンド・スタディーズ・リーダー』にも収録されてます。