SHIBATAROのブログ

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柴田康太郎のブログ。映画音楽・映画・音楽の研究してます。

映画音響/映画音楽研究の基本文献リスト(3):映画音響研究

さて第3弾(実はとうの昔に書いたものなのだけど、確認などしてからアップしようと思ったら時間が経ってしまったので、見切り発車的にアップします)。

映画音響研究の関連するものですが、ここでの「映画音響」という言葉は、映画の音に関わる部分で「音楽以外をふくめて」という程度の意味合いで使っています。このリストでは、音楽はそれだけで一定の物量があるので別立てにしてますが。

ここで紹介すべきだなと思っていた文章がどれもこれも英語の映画音響論の基礎文献アンソロジーであるWeis and Belton, Film Sound: Theory and Practice, Columbia UP, 1985.に入っていたので、せっかくだからこの本の目次にそって紹介します。Secction 3の各作家についての文章を翻訳するだけでも、けっこうおもしろいと思うんだけどなぁ。

   

Part 1. History, Technology, and Aesthetics 

  • Introduction
  • The Coming of Sound: Technological Change in the American Film Industry, by Douglas Gomery
  • Economic Struggle and Hollywood Imperialism: Europe Converts to Sound, by Douglas Gomery
  • Film Style and Technology in the Thirties: Sound, by Barry Salt
  • The Evolution of Sound Technology, by Rick Altman
  • Ideology and the Practice of Sound Editing and Mixing, by Mary Ann Doane

メアリ・アン・ドーン「サウンド・トラックのイデオロギー」杉山昭夫訳、『イメージフォーラム』1985年12月.

ロイヤル・S・ブラウンのヒッチコック/ハーマン論のときにも紹介した『イメージフォーラム』所収。

  • Technology and Aesthetics of Film Sound, by John Belton

Part II: Theory 
Section 1: Classical Sound Theory

  • A Statement, by S. M. Eisenstein, V. I. Pudovkin, and G. V. Alexandrov

「トーキー映画の未来〈計画書〉」『エイゼンシュテイン全集7』

可能性を開拓できないままに大資本のなかにトーキーという技術が呑み込まれることを危惧して書かれている。「対位法」という言葉がここで出てくるのも有名だけども、特にその意味内容は詳しく書かれていないので、いろいろな解釈を呼ぶことにもなる。

  • Asynchronism as a Principle of Sound Film, by V. I. Pudovkin
  • The Art of Sound, by René Clair
  • Manifesto: Dialogue on Sound, by Basil Wright and B. Vivian Braun
  • Sound in Films, by Alberto Cavalcanti
  • A New Laocoön: Artistic Composites and the Talking Film, by Rudolph Arnheim

ルドルフ・アルンハイム「新ラオコオン」『芸術としての映画』所収

「ラオコーン問題」の映画版。アルンハイムはサイレント映画を基本として映画というメディアを捉えて、トーキーを痛烈に批判している。

 

  • Theory of Film: Sound, by Bela Balazs

ベラ・バラージュ『映画の理論』佐々木基一訳、學藝書林; 新装改訂版 、1992

 ここには第16章「サウンド映画」の一部が収録されている。バラージュ・ベーラ。

  • Dialogue and Sound, by Siegfried Kracauer
  • Slow-Motion Sound, by Jean Epstein

Section 2: Modern Sound Theory

  • Notes on Sound, by Robert Bresson
  • Direct Sound: An Interview with, by Jean-Marie Straub and Danièle Huillet
  • Aural Objects, by Christian Metz

クリスチャン・メッツ「知覚されたものと名づけられたもの」『エッセ・セミオティック』樋口桂子訳、勁草書房、1993〕

すんません、この文章をちゃんと読んでからアップしようと思ってたんだけど、時間がなくてそのままです。また追記したいところです。

 

  • The Voice in the Cinema: The Articulation of Body and Space, by Mary Ann Doane

メアリ・アン・ドーン「映画における声:身体と空間の分節」松田英男訳、岩本憲児・武田潔斎藤綾子編『新映画理論集成2 知覚/表象/読解』フィルムアート社、1999.

 『映画理論集成』のあと『新映画理論集成』(全2巻)が出たのだから、『新・新映画理論集成』とか出ないものかしらむ。

    

Part III: Practice 

Section I: Practice and Methodology

  • Fundamental Aesthetics of Sound in the Cinema, by David Bordwell and Kristin Thompson

第9章「映画の音」『フィルム・アート:映画芸術入門』名古屋大学出版会〕

音に関しても基礎的な枠組みを示している、やっぱり重要な本。

  • On the Structural Use of Sound, by Noël Burch

Section 2: Pioneers

  • The Movies Learn to Talk: Ernst Lubitsch, René Clair, and Rouben Mamoulian, by Arthur Knight
  • American Sound Films, 1926-1930,, by Ron Mottram
  • Applause: The Visual and Acoustic Landscape, by Lucy Fischer
  • Enthusiasm: From Kino-Eye to Radio Eye, by Lucy Fischer
  • Lang and Pabst: Paradigms for Early Sound Practice, by Noël Carroll
  • The Voice of Silence: Sound Style in John Stahl's Back Street, by Martin Rubin

Section 3: Stylists

  • Orson Welle's Use of Sound, by Penny Mintz
  • The Evolution of Hitchcock's Aural Style and Sound in The Birds, by Elisabeth Weis
  • The Sound Track of The Rules of the Game, by Michael Litle
  • Sound in Bresson's Mouchette, by Lindley Hanlon
  • Godard's Use of Sound, by Alan Williams

アラン・ウィリアムズ「ゴダールにおける音の用法」鈴木圭介訳、浅田彰四方田犬彦責任編集『GS たのしい知識 特集=GODARD SPECIAL」』vol.2 1/2, 1985.

 

 Section 4: 現代の開拓者たちContemporary Innovators

  • Altman, Dolby, and the Second Sound Revolution, by Charles Schreger
  • Sound Mixing and Apocalypse Now: An Interview with Walter Murch, by Frank Paine
  • The Sound Designer, by Marc Mancini
  • Sound and Silence in Narrative and Nonnarrative Cinema, by Fred Camper

その他

その他のもので研究という感じのものは思い当たらないのだけれども、オーストラリアのクリエイターでありつつ気鋭の書き手でもあるフィリップ・ブロフィの仕事は看過できない。ブロフィはブログで名前をカタカナで書いてもいるというあたりに親日家を窺わせるひとで、翻訳されている『シネ・ソニック』でも、サウンドのおもしろい映画として日本映画をちらほら選んでいる。日本の同様の本としては、小沼 純一、二本木かおり、杉原賢彦編『サウンド派映画の聴き方』がある。

 

その他では、編集者のウォルター・マーチの著作は音響にかんする話題でも刺激に富んでいる。上の本のPart III: Practice、Section4にも彼のインタビューが入ってますね。

     

ちなみに、英語の映画音響論の最も基礎的な論文集であるRick AltmanのSound Theory/ Sound Practice, Routledge, 1992.についてはCinemagazinetに書評があります。研究を始めたころとても勉強になったのを思い出します。アルトマンについてはたぶんひとつの邦訳がないのじゃなかろうか。アルトマンはミシェル・シオンと並んでこの分野での超重要人物です。 ジョナサン・スターンの『サウンド・スタディーズ・リーダー』にもこの本のアルトマンの論文が収録されてます。

   

次の『Sound Design 映画を響かせる「音」のつくり方』は最近の翻訳。これもちゃんと読んでないけども、具体的なエピソードを交えながら記述されているのがいい。

    

 ひとまずこんな感じです。ほかにも何かあったらぜひお教えください!!