SHIBATAROのブログ

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柴田康太郎のブログ。映画音楽・映画・音楽の研究してます。

『國民の創生』(1915)と『イントレランス』(1916)の音楽メモ

YouTubeなどではサイレント映画も様々なものがアップされている。画質のよいものも悪いものもあるのだけれども、音楽もいろいろ。もちろん映像が基本だということではあるけれど、音楽がちがえば見え方も変わってくるのも事実。そうでありながら、YouTubeなどの動画はおろか市販のDVDやブルーレイの場合でさえ、サイレント映画の音楽についてはぞんざいな扱いが多い(格安DVDの場合でなくとも、である)。

歴史的にいえば、D.W.グリフィスの『國民の創生』や『イントレランス』の音楽を書いた音楽家といえばJohn Carl Breilの名前が有名なのだけれども、YouTubeでもDVDでもいい加減で、彼の名前を書いておきながら音楽はまったく違ったりする。それぞれをしっかり聞き比べているわけではないのだけれど、さしあたり『國民の創生』と『イントレランス』の音楽別動画リストを授業資料用にメモ。

(情報が精査できていないのだけれどもご容赦くださいませ)

とはいえ、個人的にはサイレント映画の音楽や声のおもしろさは、ライブでなければ分からないところがあると思っているので、ぜひ足を運んでもらいたい。関東圏を中心に映画保存協会のウェブサイトに無声映画カレンダーがまとめられている。

『國民の創生』(1915)

この映画は、ロサンゼルスでの封切時にはカール・エルノアが選曲した既成曲による伴奏がなされたが、その後ニューヨークでの公開に際してジョン・カール・ブレイルの音楽が付されたことが知られている。

John Carl Breilによるオリジナルスコア(1915)のジョン・ランチベリー編曲版(1993年)

紀伊国屋書店のDVDがどうにも奇妙なほど音楽と映像がずれていて戸惑っていたら、ランチベリーの編曲版の演奏がついた動画がアップロードされていた。いまとなってはDVDよりもはるかに画質もよい。英Photoplay Productionのテムズ・サイレント・シリーズの1993年を機に演奏されたものかと思うのだが、1997年にポルデノーネでプレミエとの記載もあるので目下詳細不明。ジョン・ランチベリーは、英国出身でバレエ音楽などでも活躍した作曲家・指揮者。演奏はルクセンブルク放送交響楽団

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ちなみに、ブレイルの音楽についてはクライド・アレン指揮のニュージーランド交響楽団によって録音された1985年発売のCDもある。3曲サンプルがYouTubeにある。上のランチベリー版にはアメリカ国家などがアレンジされて冒頭に付されているが、ブレイルの楽譜冒頭曲は↓の曲と思われる。

"Bringing the African to America; The Abolitionists; Austin Stoneman: Elsie Stoneman"

The Mont Alto Motion Picture Orchestra

Mont alto motion picture orchestraは、サイレント映画の音楽伴奏を行ってきた楽団。より現代の観客の感性に合わせた音楽を視野に入れながらも、ブレイルの曲をそのまま演奏すると、いまではよく知られた曲が次々と登場するので却って要らぬ意識がはたらいてしまうからよくないだろうということで、むしろ公開当時の音楽をもとに伴奏を行っているらしい(正直、僕もよく知らない曲なのでどれがどれと特定できていません)。が、Rodney Sauer(*1)によるこの解説をみると面白いことに、1915年封切当時に入手可能だった曲を選んでいると戦闘シーンの曲で適当なものがないので、1921年の再公開時のときに入手可能だった楽曲(J.S. Zamecnik, Hugo Riesenfeld, Gaston Borch, M.L. Lakeらサイレント映画の伴奏曲の定番作曲家たちのもの)へと選曲対象を広げたという。こういった場面はその後、サイレント映画伴奏としてステレオタイプのものがたくさん出版されているわけだけれど、『国民の創生』のあとでその需要が増えていったのではというのだが、どうなのだろうか。この録音がなされたときよりも、いまは資料がいろいろと発掘されているはずだから、改めてちゃんと検証したいところ。

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www.mont-alto.com

*1 ザウアーの名前は上の解説には書かれていなかったけれど、以下より。

Mont Alto's Score for "The Birth of a Nation" - NitrateVille.com

1933年に作曲家のLouis Moreau Gottschalkの協力のもと、D.W.グリフィスが編集したバージョン

Louis F. Gottschalkの名前がGottchalkとなっている。これもBreilの楽譜をもとにしている。このバージョンについてはもっと知りたいところだけれど、目下未調査。

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イントレランス』(1916)

この作品は楽譜がフィルムの復元に貢献したと事が知られていて、まさにそのカール・ブレイルの音楽があるわけだけれども、実はわたくしこの作品の楽譜がどんな状況にあるのか、いまひとつよくわかっておりません。が、調べてみると、この大作だけに、けっこうおもしろいバージョンの音楽があるのだなと気づかされる。『気狂いピエロ』のアントワーヌ・デュアメルが関わったものさえあると知って驚いた。

シアターオルガン版

紀伊国屋書店のDVDと同じ音楽だけれども、手元にあるブレイルの楽譜と合わない。シアターオルガンらしき響きだが、ちょっとチープにも聞こえてしまう。シアターオルガンは日本の映画館で聞くことはできないわけだけれども、日本橋三越のシアターオルガンも未だ聞けていない。

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日本橋三越のシアターオルガンについては、内田順子「研究ノート 日本橋三越本店におけるパイプオルガン導入について」『国立歴史民俗博物館研究報告』 (197 159-173, 2016)を参照。

https://bibliothek.univie.ac.at/sammlungen/objekt_des_monats/images/Aufsatz_UCHIDA_%20Junko_2016.pdf

Antoine Duhamel & Pierre Jansenの音楽(1985/2007)

アントワーヌ・デュアメル(『気狂いピエロ』の作曲家!)とピエールジャンセンが1985年に作ったものの2007年版。イル・ド・フランス国立管弦楽団の演奏、ジャン・ドロワイエの指揮。

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Carl Davies作曲のオーケストラ伴奏(1986?)

カール・デイヴィス指揮、ルクセンブルク放送交響楽団の演奏と思われる。壮大な音楽。CDももリリースされている(Intolerance - Carl Davis Collection)。

以下は日本語字幕付きの動画。字が黄色だけれども。www.youtube.com

Joseph Turrinのピアノの伴奏音楽(2002)

Kino Internationalから発売されたもの。以下の動画はトゥリン自身のウェブサイトでもリンクされている。

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www.josephturrin.com